「さいごは笑ってお別れしよう」
新幹線に乗った彼女は、涙と笑顔が混じったような顔で私に手を振った。
「ありがとう。」
必死に涙を堪えて彼女に手を振った。
ドアが閉まりゆっくりと走り出した新幹線。徐々に加速していくそのスピードと比例して、2人の心の距離も遠ざけていった。
「幸せになってね」
出会い
2人は、会社の研修で出会いました。
その研修は、全国の支店から選りすぐりの数十名が集められ、2週間共に業務と研修を行う、というものでした。
毎日17時の業務終了後は自由時間。
時間外の外出は自由。部屋で何をしていてもOK。
ただし、異性の部屋に入るのだけは禁止、飲酒も禁止、そんな研修でした。
そこで同じ班になったのが彼女でした。
研修開始
研修は新商品についての座学、ロールプレイング、経営戦略的な内容等多岐に渡りました。
もちろん通常業務も並行してこなす必要があり、きつい日々でした。
上記のような厳しい毎日、同じ班で毎日顔を突き合わせるとなれば、チームメンバーとは嫌でもいろんな話をするようになります。
同じ班の中でも彼女とは特にいろんな話をするようになりました。
仕事のことはもちろん、大学時代のこと、恋人のこと、趣味のこと、2人は休憩時間にいろんな話をしました。
お互い気が合うことは何となく気が付いていました。
話も合うし趣味も合う、見た目も好みで性格も好み、恋人がいる身だからダメだけど、マジでいい女や、、、
見た目はいかついし話し辛そうな感じだったけど、1回話してみるとすごくいい人。
話も面白いし趣味も合う、今の彼氏と付き合ってなかったら絶対好きになってる気がする!
もうあっちも私のこと好きなんじゃないの?
そもそも今の彼氏とは上手く行ってないし、乗り換えてもいいかなあー、なんてね笑
業務修理後の自由時間
日々の業務の中で少しずつ仲良くなってきた2人は、夕食後ロビーで話をするようになりました。
夕食後のロビーにはたくさん人がいるので2人で話をしていても特に怪しまれません。
ただ、周りに人がいるため深い話は出来ませんでした。
本当は部屋で2人で話したいんだけど、お互い恋人がいるしそこはけじめをつけて誘うのはやめとこう。。。
別に部屋に誘ってくれてもいいんだけど、チャラい見た目の割に実は真面目なのかな?笑
そんな2人に急展開。
「今日の特番で〇〇ってバンドが出るんだけど知ってる?」
「え、逆に知ってるの?私めちゃくちゃ好きだよ。知ってる人初めて見た笑」
「まじか!笑 じゃあ部屋で一緒に見るかー!」
「いいねー見よ見よ笑」
休憩中に雑談でこんな話をしました。
その時は私はもちろん冗談のつもりでした。少しだけ期待はしていましたが。笑
彼女も冗談のつもりだったのかもしれません。
そして業務が終わり、ダメもとでLINEをしてみました。
「来るときLINEしてね!」
「男の部屋入ったのばれたら反省文書かされちゃうよ笑」
「だよね笑 お互い自分の部屋で見て終わったら感想言い合おう!」
「もちろん!」
私は、ほっとしたような、残念なような気持ちになりました。
夕食を食べ終え部屋でゆっくりしていると、私のもとへまた一通のLINEが送られきました。
「今から行っていい?」
完全に諦めていた私は部屋で1人、ベッドの上で飛び跳ねました。
「バレないようにこっそりね。笑」
平静を装いLINEを返すのが精一杯でした。
部屋に彼女がやってきます。
準備
LINEが来たのは19時50分。
特番始まるまであと1時間ちょい。
彼女が来るまでの間に、できる限りのことをしよう。
そう考えた私は、まずは部屋の片付けを始めました。散らかった机を片付け、男臭さを取るために部屋全体にファブリーズをぶちまきました。
また、万が一何かが起きたとき少しでもいい状態を見せようと、腹筋腕立てをして身体をパンプアップさせました。
最後に、1日の研修と筋トレでかいた汗をシャワーで流し、念のため勝負パンツを履いて時が来るのを待ちました。
よし、これで彼女が部屋に入っても引かれることはないだろう。でも、ファブリーズのかけ過ぎで逆に怪しい?シャワー浴び終わってるのもおかしい?うん、あと5分で来るからもうジタバタするのはやめよう。
どんな私服なんだろう?
あー緊張する笑
誘ってくるのが遅い!どれだけ待ったと思ってるんだよ!でも、ようやく呼ばれた。笑
何があるか分からないから、一応シャワーを浴びてから行こう。でと、スッピンは恥ずかしいから化粧はしよう。
香水も軽く振って、いい感じにしていこう。
あー緊張する笑
そしてついに、その時はやってきました。
終わりの始まり
20時半頃、コンコンとノックの音が鳴りました。
「(ついにきた、、、)」
高まる気持ちを抑え、ドアを開けた。
「本当に来ちゃった。」
そこには、いつも見るスーツ姿ではない、私服の彼女の姿がありました。
「(美しすぎる、、、)」
そう言いたかったのをグッとこらえ、
「スーツとだいぶ感じが違うね。」
と中途半端なことを言いました。
こうして、彼女が部屋に入ってきました。
研修生に与えられている部屋は狭いシングルルーム。
当然椅子はひとつしかなく、私は椅子の上に鞄を乗せていたので、彼女は仕方なく?ベッドの上に座りました。
「こっそり買ってきたよ。」
彼女の手には、ビールとおつまみが入ったビニール袋がありました。
「バレたらクビだね。笑」
そう言って2人で笑いながら、ビールの栓を開けて乾杯をしました。
特番が始まるまでの間、いつものようにいろんな話をしました。
研修の先生がうっとおしい話。
同期同士で付き合ってる疑惑が出ている話。
真面目な仕事の話。
恋人の話。
2人きりの部屋で5センチ隣に彼女が座っている、ということ以外、いつもと何も変わりませんでした。
そうこうしているうちに、特番が始まりました。
部屋に呼んだ口実は共通の好きなバンドをテレビで見るためでしたが、私の心にそんな余裕はありませんでした。
かわいすぎる、、、やばい。何やこいつ。。。
この子は今何を考えているんだろう。。。
彼女が誤っておつまみを床に落とし拾い上げた時に、ふと目が合いました。
結局、そのバンドを見ることはありませんでした。
ここから先は、ご想像の通りです。
「結局バンド見なかったね笑」
狭いシングルベッドで私の横で寝ている彼女は、笑いながらそう言いました。
「今度一緒にライブ行こう笑」
疲れたからか、彼女はそれ以上何も話すことなく眠りにつきました。
あー、かわいすぎて死ぬかと思った。笑
とりあえずバレないようにしよう。
これからどうしよう。
目を瞑りながら、人生初の浮気をしてしまった後悔と、彼女のことを本気で好きになってきている胸の高鳴りで、なかなか寝つけませんでした。
あー、すごくよかった。
でも、月曜日からどういう顔して会えばいいんだろう?笑
まあ、それはその時考えればいっか。
これが、終わりの始まりでした。
この時何もしていなければ、辛い思いはせずに済んだのかもしれません。
次の日
知らない間に寝てしまった私たち。
5時にふと目が覚めた私は、彼女を起こしました。
「朝だよ。ぐっすり寝ちゃってたね。」
「誰のせいでこんな疲れたと思ってるの。笑」
彼女は笑いながら言いました。
そのホテルは、男女でフロアが分かれています。男性のフロアに女性は立ち入り禁止のため、周りの男が起きる前に彼女は部屋を出る必要がありました。
「ありがとう、部屋に戻るね。また連絡する。」
「うん、こちらこそありがとう。またね。」
こうして、激動の一晩が終わりました。
めちゃくちゃかわいかったなあ。。。
でも、周りに悟られないように月曜日は普通の顔して会おう。
とりあえず疲れたから二度寝しよう。笑
ホントは全然寝れなかった。笑
部屋で昼まで寝よう。笑
研修最終週
朝から私は緊張していました。
「(どういう顔して会おう、、)」
おそらく、彼女も同じことを考えていたと思います。
しかし、2人の心配は無駄な心配に終わりました。
先週のことが嘘であるかのように意外といつも通りに話をすることができました。
お互いその話題には特に触れることもなく、他の誰かに悟られることもなく、それから数日が過ぎて行きました。
ある日の晩、一通のLINEが届きました。
「今から部屋に行ってもいい??」
研修が終わる3日前のことでした。
再び
金曜日の夜、再びコンコンとノックの音が鳴りました。
部屋に入った途端いきなり抱きついてくる彼女。
それを拒否する理由は私にはありませんでした。
ひとしきり終えた後、彼女は言いました。
「彼氏と別れたら付き合ってくれる?」
もちろん、彼女のことは好きでした。でも、一応私も恋人がいます。
すぐに別れて付き合ってもよかったのですが、今はお互い狭い空間の中で感情的になっているだけであり、研修を終えた後はまたいつもの日常に戻った方が良いと思うようになるしれない、という考えが頭によぎりました。
「お前のことは好き。でも、今はお互い感情的になっているだけかもしれないから、研修終えて一旦冷静になって考えよう。」
正直に私は言いました。
「そういうところが逆に好き。笑 うん、そうしよう!」
この後、お互いいろんな話をしながら、また眠りにつきました。
研修最終日
長かった研修もついに最終日。
嬉しいような寂しいような、そんな複雑な気持ちを抱えて研修自体は普通に終えることができました。
私は岐阜、彼女は大阪。遠くはないけど近くもない。これからどうなるんだろう。
でも、もう1回話したいな。
今日で終わりか。これからどうなるんだろう。最後、誘ってくれないかな?
最終日は午前中で終わり、研修のメンバーは皆談笑をしながら最後の時を楽しんでいました。
今日が終わればみな自分の働く地に戻り、今以上にバリバリ業務をこなして行かなければなりません。
しばらく皆で話をしていると、彼女が1人になるタイミングがありました。
「一緒に帰ろう!」
彼女のもとにこっそり寄っていき、私は言いました。
彼女は喜んだ表情で、
「言うのが遅い!笑」
と言ってくれました。
いつもおせーんだよこの男は!笑
でも、誘ってくれてよかった。
楽しみだな。
皆にバレないようにこっそり場を離れ、ホテルの最寄のひとつ隣の駅で集合をすることにしました。
「なんか密会みたいだね。笑」
「何回も密会してるじゃん。笑」
運のいいことに研修所の周りにはいろいろな遊べるスポットがあったので、私たちは研修所に閉じ込められていた苦痛を発散するかのように子供のようにはしゃぎました。
時間は経ち夜になり、お互い電車に乗らなければならない時間になりました。
帰りの電車は別々。
「駅のホームまで送るよ。」
改札から無言で駅のホームまで歩いた私たち。
電車はすぐにやってきました。
「ありがとう。またね。」
彼女は、笑って言いました。
「うん、またね。」
こうして、長かった研修は終わりました。
仕事に追われる日々
仕事は本当に辛かったです。
お客さんに怒鳴られ上司に怒鳴られ、毎日大変でした。
そんな中、彼女とは連絡を取っていた。仕事の辛さを共有したり、恋人の愚痴を言ったり、そろそろ遊ぼうよーと言っていたり、しょうもないことをLINEで話す日々は続きました。
転機
お互い連絡を取りながらも、会うことはしませんでした。
会おうと思えば会えたのかもしれないが、新幹線の距離と仕事の忙しさがそうさせてしまっていたのかもしれない。
そんな2人に転機が訪れました。
お互いが大好きなバンドのライブがあるらしい。
特番で見たかったバンドとは別のバンド。
それを知った私はすぐにLINEを送りました。
「半年後にライブがあるらしい!見に行こう!」
すぐに返信がきた。
「もちろん行こう!特番の時みたいに土壇場で見ないのはなしね。笑」
そこからやりとりは続き、偶然次の月末の土日がお互い空いていることが分かりました。
会うことになりました。
「久しぶりだね。」
「もっと早くアポ取りに来てよ!笑」
相変わらず綺麗な彼女は、笑いながらそう言いました。
彼女が好きな場所、食べ物、いろんなところを案内してもらった。
お互い次の日も空いていたので、その日は泊まって次の日に帰った。
会っている間、彼女は彼氏と別れたい、と愚痴を言ったりしていたが、私はそれに答えることはなかった。
俺も好きなんだけど、浮気から始まった恋にハッピーエンドなんてあるんだろうか、、、もう少し考えよう。
このアホ早く告白してこいよ。笑
今思えば、この時に告白していれば人生は変わっていたのかもしれない。良い方向なのか悪い方向なのかは今となってはわかりませんが。
その後、どちらが決めたわけでもなかったが、翌月から月末の土日は会うことがルールになっていました。
ある時は私の地元を案内したり。
ある時はスノボに行ったり。
ある時は海に行ったり。
ある時は祭りに行ったり。
周りから見ればカップル以外の何者でもなかったでしょう。
ライブまでの5ヶ月間、1回も欠かすことなく月末の土日は会っていました。
あー、楽しい。やっぱり俺はこの子のことが好きや。本気で。もう告白しよう。
彼女とは別れよう。
ライブ当日
ライブは金曜日。
彼女には金土日すべての予定を空けてもらいました。
金曜日はライブ、土曜日はお祭りで花火をみて、ホテルで告白しよう。
そう決めた。
ライブの日に告白すると決めた私は、まず付き合っていた彼女に別れを告げることにした。
彼女がいる状態で告白しても何も伝わらないと思ったからだ。
彼女に別れを告げた。
浮気をしていることは気付かれていなかった。
もともとお互い連絡はあまり取らず会ってもおらず、すんなり別れることができた。
風の便りでは私と別れてすぐ新しい彼氏が出来たようだった。
ライブ当日がやってきた。
ライブ会場はお互いの住んでるところの中間地点だったため、会場の最寄駅で集合した。
めちゃくちゃはしゃいでいた。
ライブは最高だった。
久しぶりのライブで疲れ切った私たちは、すぐに寝てしまった。
明日は運命の日だ。
告白
いつもと同じ朝を迎える。
彼女は、今日告白をされるなんて思ってもいないだろう。
朝からその街を観光した。
お昼過ぎからは祭りが始まり、夜には花火が打ち上がった。
花火はとても綺麗だった。
そして、ついにこの時が来た。
ホテルに戻り、お風呂に入りひと段落した後、私は口を開いた。
「今までなーなーで過ごしてきたけど、本当に好きになりました。彼女とも別れた。付き合って欲しい。」
少しの沈黙の後、彼女が泣きながら口を開いた。
「、、、、遅いよ。」
「先月プロポーズされたの。」
「迷ったけど、結婚することに決めた。」
「ごめんね。」
私は、自分の優柔不断さに後悔をし、涙した。
「もう決めたことなんだよね?」
「うん。」
「取り消してって言っても無駄だよね?」
「うん。」
「わかった。ごめんね。」
長い沈黙の後、お互いが本当の本音を話した。
「私は本当にあなたのことが好きだった。告白されたら彼氏と別れるつもりでいた。でも、してくれなかった。でも、私から告白することは出来なかった。彼女がいるあなたに告白は出来なかった。別れたと聞いてあなたも私と同じ気持ちだったんだということがわかって嬉しかった。でも、少しだけ遅かった。私はあなたとは付き合えない。」
「俺は、浮気から始まった恋にハッピーエンドがあっていいのかをずっと悩んでいた。彼氏にもすごく申し訳ないと思っていたけど、好きだから関係を立てなかった。だけど、本当に好きだと思ったから彼女と別れて告白をした。でも、遅かった。これは優柔不断な俺のせい。だけど、出逢ってすぐに付き合っていたら、ここまで好きになることはなかったかもしれない。最初からこうなる運命だったんだとも今となっては思う。」
最後の最後で、初めて心から本音で話せたような気がした。
悲しいけど、嬉しかった。
と同時に、浮気という誰かを悲しませるようなことをしてしまった時点で、こうなることはわかってたんだ、と自分に言い聞かせた。
お互いに2つ約束をした。
「さいごは笑ってお別れをしよう。」
「絶対幸せになってね。」
終わりの終わり
最後の朝。
同じタイミングで起きた私たちはお互い目を腫らした顔を見て笑いあった。
「ひどい顔してるね。笑」
「それはお互い様だよ。笑」
「私は化粧でごまかせるから。笑」
昨日のことがなかったかのような穏やかな朝だった。
いつも通り話をしながら帰りの支度をし、朝食を食べ宿を後にした。
帰りの電車に向かう道中も普通に話をした。電車に乗ったらもう一生会うことはないだろう、ということ以外はいつもと何も変わらなかった。
そうこうしているうちに、駅に到着した。
彼女と私は反対方向の新幹線。彼女の新幹線が先にやってくる。
待合スペースでコーヒーを飲みながら電車が来るのを待った。
「今まで本当にありがとう。ごめんね。」
「お礼を言うのは俺の方だよ。そして最後なんだから湿っぽいのはやめよう。笑って別れる約束!笑」
と言い、楽しかった思い出話で無理やり場を盛り上げた。
本当は泣きたいしこんな話したくないけど、最後は笑顔を見てお別れしたい。
だめだ、話せば話す程泣けてくる。
別れの時間が近付いてきた。
私たちはホームに戻った。
「新幹線来ちゃうね。」
「いやまだ大丈夫。ちょっと駅燃やしてダイヤ遅らせてくるわ!」
「最後まで面白いね。笑」
到着のアナウンスがなり、新幹線が止まった。
お別れの時間だ。
「今まで本当にありがとう。楽しかった。元気でね。気をつけて帰ってね。」
行かないでくれ、俺のところに来てくれ、と言うことはできなかった。
「私の方こそ本当にありがとう。」
彼女は笑ってそう言って新幹線に乗りこみ、予約していたホーム側の窓際の席に座り、私の方を向いた。
彼女は泣いていた。
「ごめんね。」
泣きながら動かしている口元から、そう言っていることが読み取れた。
私は無理やり笑顔を作り、
「ありがとう。」
と手を振った。
新幹線は動き出し、すぐに彼女の姿は見えなくなった。
一通のLINEが届いた。
彼女からだ。
「1つ目の約束守れなかった。泣いちゃった。ごめん。」
「大丈夫、今駅のホームで俺も泣いてるから!笑」
「本当に最後まで面白いね!笑 笑わせないでよ!新幹線の中で泣きながら笑ってる変な人になっちゃうじゃん!笑」
「その返事で俺も笑った。笑 ということでギリギリ約束守れたということにしとこう!」
彼女からLINEが来たのは嬉しかった。
でも、このままじゃだめだ。
これで本当の最後にしよう。
もう連絡を取るのは終わりだ。
そう覚悟して、最後にLINEを送った。
「今まで本当にありがとう。幸せになってね。」
走り出した新幹線。徐々に加速していくそのスピードと比例して、2人の心の距離も遠ざけていった。
涙を拭っている間に、私が乗る新幹線がやってきた。
全て終わったんだ。
そうだ、今日はライブで一緒に見たあの曲を聴きながら帰ろう。
最後の花火に今年もなったな
何年経っても思い出してしまうな
ないかな ないよな
なんてね 思ってた
まいったな まいったな
話すことに迷うな
最後の最後の花火が終わったら
僕らは変わるかな
同じ空を見上げているよ
エピローグ
しばらく全く使っていなかった数人しかフォローしていないTwitter。
数年ぶりにふと開いた。
1ヶ月前の彼女の投稿があった。
「今、アメリカに住んでます!」
「子どもが生まれました!」
よかった。
2つ目の約束も守ってくれたんだね。
俺も先に進んでるよ。
もう一生会うことはないけど、お互い頑張って日々を過ごしていこう。
そう心の中で呟きながら、私は彼女の連絡先をそっと消した。
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